メキシコ料理の店 ラ・カシータ/Restaourante La Casita Cocina Mexicana

オーナーシェフのコラム

第21章

食材の宝庫、十勝の可能性

帯広には世界に例を見ない画期的な場所がある。「北の屋台」と名付けられたその領域は、今までの屋台商売の概念を見事に覆(くつがえ)した斬新奇抜な集合体を構成しているのだ。そもそも屋台と云う形態は歩道上での営業のため、保管場所と営業場所を毎日往復しながら手間をかけて組み立て・収納を繰り返し、また上下水道を完備していないので、ポリタンクの貯め水での非衛生的な調理を余儀なくされる。そのためメニューも、客に出す直前に熱処理(焼く・煮る・炒める)した温かいものしか提供出来ない。これらの問題点を克服した人物こそ、北の起業広場協同組合代表、坂本和昭氏。今回の料理講習での世話人、後藤健市氏とタッグを組んで地域再発見を企画・開発している実力者である。彼らがとった方法とは、火事で消失した市場跡の駐車場を安く借り受け、上下水道、電気、ガスの設備を整えた各厨房部分を固定方式にして、そこに移動式の屋台をドッキングさせるという逆転の発想であった。保健所の営業許可も取れる状況は、冷蔵庫も設置出来て、なま物や冷たい献立も提供可能となり、そして中央部分には共同の水洗トイレや、雪対策には通路のロードヒーティングを整備、さらには厨房熱を利用した温度管理までと徹底した方式は、寒さ対策も万全であった。

「もう一度、帯広に来てもらえませんか?」坂本、後藤、両氏からお誘いがあったのは講習から半年を過ぎた秋口の頃だった。十勝毎日新聞のコラムで触れた食材事情の文脈が、彼らの活動方向と合致した模様だった。簡潔に述べると、『十勝ならではの力強さを持った食材達の価値に気付き、究極に活用出来る独創的なメニューの開発をする。豚丼も悪くはないが、帯広に出向かなければ味わえない十勝鍋や十勝焼きを考案して発信する。それが地域活性化の源となる。時間のかかることではあるが、根づよく愛された食べ物が定着して確固たる信頼を得る食文化が構築され、名物料理が世に知れ渡ってこそ、十勝帯広に誘惑される。その重責を担う最前線の「北の屋台」の方々は最適な発表の場を持っておられるのではないだろうか。』そんな内容だった。今回の依頼は「北の屋台」に参考になるメキシコ料理講習の要望だった。常日頃、日本の食文化の中に本来のメキシカン・テイストが溶け込んでいって欲しいと願っている私は、承諾して後日、再び帯広へ向かった。腑分けされたばかりの部分肉や、畑の香り充分の野菜類をふんだんに使った10品目の献立は好評で、約80人を集めた試食会の記事は翌日の新聞紙面を大きく飾った。これからの帯広食事情に大いに期待したいものである。