メキシコ料理の店 ラ・カシータ/Restaourante La Casita Cocina Mexicana

オーナーシェフのコラム

第67章

テキーラカクテルの創作

メキシコの酒といえば誰しもが口にする「テキーラ」。サボテンから造られるとよく思われているが、Agave-Tequilana(アガヴェ・テキラーナ)と呼ばれるMaguey(竜舌蘭)の一種が原材料である。元々、Mezcal(メスカル)として全土で飲まれていた地酒が、1893年のシカゴ万国博に展示された折、出荷がハリスコ州テキーラ村だったことから、テキーラ産の判定証が与えられた。それ以来「テキーラ」の名で通用しているが、正しくは「テキーラ村のメスカル」と解釈すべきだろう。因みにメスカルはオアハカ州の物が有名である。講釈は兎も角、テキーラ村周辺には約400軒の造り酒屋が点在し、日本酒に例を挙げるなら、純米、吟醸、古酒などの手間隙かけた逸品が製造されている。通常、一本2千円〜5千円くらいなのだが、中にはブランデーやウィスキー同様に一本2万円〜5万円もするものがある。近年、米国でテキーラブームが起こり、その影響で我が国でも輸入業者が増え市場では多種の物が販売されているが、未だ未だ飲み方に関しては誤解が多く、例えばショットグラスに炭酸と共に注ぎ一気に飲むショットガンと称されるものは、アメリカのサーファーたちがビーチで盛り上げる飲み方。本国のレストランではご法度である。現在、テキーラ協会が発足したり、専門のバーが何軒も開店している状況は、この酒に対する認識が徐々に改まるものと思われる。

遡ること10余年、2001年の暮れの頃である。この年、メキシコ映画「アモーレス・ペロス」の主演男優、ガエル・ガルシア・ベルナルがヴェネツィア国際映画祭で新人俳優賞を受賞し、世界中の映画祭にて本編が各賞を受けたことから日本でも上映されることとなった。が、まだ無名の存在。配給元が発案したのは全国のメキシコ料理店とのタイアップ。映画の半券を持参すれば、その店のオリジナルカクテルがプレゼントされるという企画。丁度その時期、ラ・カシータでは「テキーラは強い酒」のイメージを払拭し、如何にして女子達にテキーラを好んで貰えるかを模索していた。恵まれたことに、当時、バーテンダーの経歴を持つスタッフがいた。試行錯誤の末、彼が考案した作品は、テキーラにライムの風味を付け、トニックで割ったものに赤ワインをフロートさせるという完璧なものであった。そのイメージから口紅を連想し、Labios(唇)と名付けたこのカクテルは当初、半券を持つお客様だけへの提供だったはずが、リピーターが後を絶たず、定番に昇格し、今や多大なファン層を持つ位置に鎮座している。その後、完熟イチゴのフローズンマルガリータ、フレッシュアボカドや食用サボテンのジュースなど、数々の創作飲料に携わってくれた大天才の彼は独立を果たし、JR新潟駅前でメキシコ料理店を営んでいる。