メキシコ料理の店 ラ・カシータ/Restaourante La Casita Cocina Mexicana

オーナーシェフのコラム

第96章

『新チューボーですよ!』最終ロケ

2016年12月24日、TBSの『新チューボーですよ!』がとうとう幕を閉じた。22年の歳月を誇る長寿番組である。思い返せば、メキシコ料理の献立の度に出演依頼があり、街の巨匠として王道のスタイルを披露することが出来た。基本のトルティージャの生地の練り・伸ばし・焼き方から始まり、タコスやエンチラーダスに絡むサルサの調理に関しても、食材を切る最適な大きさ、配合バランス、熱の入れ方、塩加減など、細かい指導VTRが幸いしたのか、5回のオンエアの内、三つ星を4回獲得している。この番組だけは私自身が参加できないので、スタジオの堺さんの手腕に託すしかないのだが、ラ・カシータの調理手順を選択して貰えた結果には大感謝である。最後の出演は2016年の春だった。数年前、メキシコ料理がユネスコ世界無形文化遺産に登録された件もあって、今回の制作スタッフは意気込んでいた。お題は「ビーフタコス」だったが、冒頭でタコスを10種類紹介したいのでお願いできますか?との注文が来た。本国では100種を超える具材があるのだが、我が国で馴染みのないものを選ぶことにした。食用サボテンと豚肉の炒めもの、真鯛のフリッター、若鶏の唐辛子風味、海老の辛味ソース、豚の胃の煮込み、蛸と茸のトマト煮、鶏もも肉のモーレソース、豚ロース肉ウァヒージョ風味、牛もも肉ステーキ、メキシカンライスに茹で卵、色とりどりのタコスが並ぶ景色はおそらく初めての放映であろう。現場では全部美味しそう!と声が上がり大絶賛の収録だった。

若手を紹介するコーナーでも4回目の「未来の巨匠」、そして今回の賄い担当でも店のスタッフが選ばれた。画面を通じてラ・カシータが持つ美味しさの誘惑を表現できる最大のチャンスに彼も燃えていた。鶏の唐揚げの衣にとうもろこしの粉を混ぜ、ボイルしたジャガイモと炒め合わせにした辛味、香り豊かな乾燥唐辛子をアクセントに加えるなど、着想に富んだ見事な皿を調理してくれた。料理長、セカンド、ホールの皆も感心しきりの賄いタイムの後、休む間もなく、本命の「ビーフタコス」の収録に移っていく。材料は少し厚めにスライスした牛赤身肉、サルサは強い辛味を持つチレ・アルボルとトマト、ニンニクを焦げるまで焼いて、塩で調味したものを選択した。ディレクターの拘りは半端なものでは無く、カメラが寄る瞬間にトルティージャや炒め肉から少しでも湯気が少ないと作り直しを命じられ、撮影は12回にも及んだ。朝10時からスタートした収録は12時間後の夜10時に終了したが、全力でやりきった達成感に心地よく、不思議に疲労感は無かった。放映の翌日は日曜日、開店前から行列が出来、夜まで客足は絶えず、流石の視聴率の高さに感心した。この20年余、メキシコ料理に何度か白羽の矢を立ててくれた制作会社に心からの御礼を言いたい気持ちでいっぱいである。局を代表する番組が終わってしまったのは残念だが、声を大にして申し上げたい。「本当にありがとうございました!」