メキシコ料理の店 ラ・カシータ/Restaourante La Casita Cocina Mexicana

オーナーシェフのコラム

第115章

ラハスの解釈

メキシコ先住民に牧畜、チーズ生産の技術を授けたのはスペイン人たち。16世紀の頃であった。以降、伝統郷土料理の彩りに欠かせないパートナーとして全国地域で食されている。中でも山羊の乳(最近は山羊と牛のブレンド)から作られる短期熟成(2〜8ヶ月)の「ケソ・アニェホ」はアントヒートス(惣菜類)のトッピングに必要不可欠な存在となっていて、塩分は強めだが口当たりは柔らかく、優しいハーブの香りが調理されたものにアクセントを与えている。「ケソ・フンディード」(メキシコ式チーズフォンデュ)によく使われるケソ・マンチェゴは濃厚な旨味を持つ。スペインのラ・マンチャ地方の製法で作られたこのチーズは、加熱すると熟成した香りが際立ち、充分な美味しさを期待させてくれる。硬粒種(又は馬歯種)のとうもろこしから作られる主食のトルティージャとの相性も抜群で、通常はカスエラと呼ばれる土鍋にチーズだけが融かされて、共に提供されている。具材を足す場合、一般的にはチレ・ポブラノ(深緑色の大きな唐辛子)をスライスして熱処理したラハスだけか、チョリーソ(塩分が強く微発酵した太めの腸詰)を乱切りにして加えた形が知られている。ラハス(Rajas)とはスペイン語で裂いたものの意だが、長年の習慣の中でチレ・ポブラノだけに限られた調理法として定着している。敢えて主語を言わなくても食生活に根ざした言葉と理解できる。

ラ・カシータ創設時、メキシコ料理は辛いだけのイメージを払拭したくて、もがいていた私にとって、ラハスについて熟慮して出した結論は、野菜の旨味を充分に活用した形だった。ピーマンだけに辛味を付けても正解なのかも知れないが、あまりにもシンプルすぎて、メキシコ料理が軽視されるのに大きな抵抗があったのを記憶している。玉ねぎ、人参、ピーマン、ニンニクを駆使して調理したラハスはサルサ・メヒカーナと共にタコス、ケサディージャの薬味、メキシカンライスの付け合わせとして提供していたが、これだけでも食べたいと追加注文する顧客たちが増えていった。後に当店の人気メニューとして登場してくるラハス・コン・ケソも同様、前述したケソ・フンディードとラハスの食材を合体させ、アドボソースの旨味を隠し味にした豚ロース肉の美味しさを加味、チレ・ハラペーニョの辛味がほのかに漂う絶品に仕上がった。以来、リピーターも多く、先日も常連の寺門ジモンがどうしても自分の番組で紹介したいと依頼があり、2018年4月にフジテレビ「ペコジャニ∞!」で放映された。翌日から彼のファン達がラハス・コン・ケソを求めて何組も来店。ジモンの人気度も大変なものである。最近、オアハカ地方の名産チーズ、ケシージョも輸入されるようになり、少しずつメキシコ本国の個性豊かな味に気づく機会は増えてきたが、メキシコがチーズ大国と認識してもらえる状況には程遠い。