メキシコ料理の店 ラ・カシータ/Restaourante La Casita Cocina Mexicana

オーナーシェフのコラム

第135章

フードコーディネーター

2017年の春、突然、フードコーディネーターのカリスマ、結城さんが訪ねてきた。メキシコ在住のスペイン語通訳を紹介して欲しいとの用件だった。世界一のレストランとの呼び声が高いデンマークの革新的な店『ノーマ』が、この夏に期間限定で芸術的なタコスを披露する店舗をメキシコ市に開催する。招待を受けたので、頼りはあなたしかいないと懇願された。誉れある事態である。幸い、以前メキシコ料理講習を依頼されたメキシコ大使館商務部一等書記官の知人に連絡を取り、ことはスムーズに進む運びとなった。これほどメキシコ食文化が意識されるのは、やはり2010年にユネスコが世界無形文化遺産に登録した事実が大きいと考えられる。後日、現地へ赴いたシェフの話では、「伝統的な焼きたてのトルティージャに美味しさを追求した子豚のローストなどの具材は斬新で、世界中のグルマンを唸らせた」とコメントしている。このイベントの影響は多大で、最近は我が国でも、新しいタコスを考案する店が増えてきた。実際、フォアグラや稚鮎を駆使したものも提供されており、近未来は和・洋・中の垣根を越えて贅沢三昧のタコスが世界中に溢れ出すと思われる。メキシコ本国でも、この10年、盛り付けや調味にフレンチを意識した調理法が料理界に現れ、注目を浴びている。料理人として表現するなら「より美味しく」の姿勢は、私も同様で、これからの成り行きが楽しみである。

結城さんとの出会いは1998年の『料理の鉄人』に出演した折だった。収録後のスタジオで、番組で調理した品々を試食していた彼女から声が掛かった。「渡辺さん、全部美味しいわよ!」と、期待以上のメキシカンの味に感動している様子だった。一目置いてくれたのか、それから調理指導の依頼が何度か来る事態となる。フジテレビ『SMAP×SMAP』のゲスト達(宇多田ヒカル、宇津井健、水谷豊、敬称略)がメキシカンを要望する毎に電話があったが、残念ながら3回とも地方出張や料理教室と収録日が重なり、お手伝いできなかった。TOKIOが進行する番組『メントレ』も担当していて、宇津井さんや古手川祐子さんに呼ばれた時は「今日は期待しているわよ」と優しく微笑んでくれた。その折にいただいたニューヨークで目にした緑と赤の唐辛子図鑑の情報は有り難く、早速購入した。現在も原稿の検証に役立っており、大切にしている。印象深かったのは、2018年2月に渋谷の某ホテルで催された『料理の鉄人同窓会』に出席した折、120人以上の凄腕料理人が集う中に私を見つけると、駆け寄ってきて「あの時はありがとう!」と冒頭のメキシコ市のイベントでの報告を、立て板に水の如く話された出来事である。誰かの役に立てることがこんなに素敵なことかと、心から嬉しかった。業界の頂点に立ち、番組に心血を注ぐその姿は余りにも魅力的、その名は「結城摂子」才女である。