メキシコ料理の店 ラ・カシータ/Restaourante La Casita Cocina Mexicana

オーナーシェフのコラム

第141章

トルティージャの独創性

古代から伝承されてきたメキシコの主食トルティージャは、Maíz(マイス)と呼ばれる硬粒種のトウモロコシから作られる。一般に普及している黄色くて甘いCornとは別のもので、粒は数倍大きく甘くはない。通常、消石灰を加えた水で加熱し、一晩置いたものを石臼や機械などですり潰す。練られた生地はMasa(マサ)と呼ばれ、これを薄く伸ばして焼かれたものがトルティージャである。カルシウム(アルカリ性)の成分が消化を助け、エネルギー食としては抜群の代物である。ちょうど、私たちの日の丸弁当(米と梅干し)に匹敵すると考えられる。薄く伸ばすやり方として、その昔はアボカドの葉で挟み、手で押さえつけるか、両手の平で叩いたりしていたが、いつの頃からか厚めの木の板2枚を蝶番で止め、右側に麺棒を取り付け、梃子の原理で上から圧力を加えられる道具が考案された。これだとそんなに力まずに、より薄く伸ばすことが出来る。木製だけで無く、アルミニウムや鉄製の鋳物も売られている。プレス機はPrensa(プレンサ)と言う言葉があるのだが、まず使われて無く、Maquina de Tortilla(トルティージャの機械)と命名された所以か、通称『マキナ』と呼ばれている。我が国にSewing Machine(裁縫機械)が出現した頃、マシーンが一人歩きして『ミシン』となったのと同じ流れである。

1976年7月、公園通りに創業した頃は持ち帰ったアルミのマキナで伸ばしていたが、使いづらさを感じていた。1978年2月の代官山旧山手通りのオープンを機に自分で作ろうと考え、各種材木を選びながら試していた。柳は弱く、桜、檜、ブナは香りが邪魔をする。行き着いた結果、歌詞の組木が最適と判明した。どんぐりの親であるこの木は堅く丈夫で一般にはテーブルなどに使われている。大きめに切り揃えた、約3cmの厚みの板2枚の左側を蝶番で止め、棚板に使うL字金具2個に太めのピアノ線で綿棒を固定して完成したかに思われたが、一抹の不安が過っていた。上板に軸棒が斜め上からの圧力をかける時、左端の蝶番に余分な圧が掛かってしまう。どうしたもんかと思った時、軸棒にぶら下がりの部品を加えて真上から押さえつける画期的なアイデアが閃いた。完璧だった。周りのスタッフ達からは祝福の拍手が起きていた。こうして誕生した何台ものラ・カシータオリジナルのマキナは歴代の教え子達に受け継がれ、独立していった彼らの財産となっている。原題はネットで簡単に幾つものメキシコ製が購入できるが、不便な時代だったからこその手作りが、それからの店の繁栄を支えるチームワークの原動力となっている。最近はメキシコ料理店が増えてきている中、美味しいトルティージャを提供するためには『マキナ』は必需品。次世代の各表現者達に期待したいものである。